


ボーソン=ディアーニュ
第1楽章の冒頭で登場するキガリ(ルワンダ)で挫折したらしいカップル。写真家マチアス役のドマイディはゴダールにスイスのロールの街角でスカウトされて映画初出演。黒人女性コンスタンス役のボーソン=ディアーニュはパリ生まれで93年いらいアフリカ系の映画への出演が多い。
スペインの黄金をめぐる謎の中心人物、老オットー・ゴルトベルクを演じるのはジュネーヴ出身の舞台美術家ジャン=マルク・ステーレ。「イザベル・アジャーニの惑い」(02、ブノワ・ジャコ)、「チャーリーとパパの飛行機」(05、セドリック・カーン)、「マリー・アントワネット」(06、ソフィア・コッポラ)など映画出演があるが、本作での存在感はすさまじい。事件を捜索するフランスの小柄な老捜査官フォンテスは、若き日に「河は呼んでいる」(58)に出演したヴェテランのモーリス・サルファティ。同じ事件をロシア側から追うのが美人将校のオルガ。演じるオルガ・リャザノヴァは経歴不詳だが、ゴダール映画の美女史につらなる鮮やかなデビュー。
事件に関係も関心もないような顔をしながらあちこちで登場するのが、白ひげで一目でわかるロベール・マルビエご本人。第2次大戦でのスパイとしての活躍から“フランスのジェームズ・ボンド”と呼ばれ、ブランパンの時計の開発でも知られている。
左:ギュリヴェール・エック
右:カトリーヌ・タンヴィエ
本人として登場する人々もにぎやかな顔ぶれだ。パティ・スミス。ギタリストのレニー・ケイ。近年フランスで知名度が急上昇しているラディカルな哲学者のアラン・バディウ。経済学者ベルナール・マリス。パレスチナの大使として登場し、パレスチナと写真の関わりについて語るエリアス・サンバールは、2006年から実際にユネスコのパレスチナ大使であり、パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュのすぐれた仏訳者であるとともに、自身、パレスチナの歴史と文化について多くの著作がある(そのうちの一冊、『パレスチナ人:1839年から現代までの土地とその人民の写真』は、本作と関係が深い)。ゴダールとは、彼が1970年にパレスチナで、のちに「ヒア&ゼア こことよそ」(76)に発展する「勝利まで」(未完)を撮ろうとしたとき以来のつきあいだ。
第2楽章はマルタン一家の4人とテレビ取材クルーの女性2人。父親はフランスの即興演劇の演出家・俳優で「燈台守の恋」(04、フィリップ・リオレ)の脚本も書いたクリスチャン・シニジェ。母親はなんと、テニスの元五輪選手(84年ロサンゼルス、銅メダル)で今は作家のカトリーヌ・タンヴィエ。長女フロリーヌのマリーヌ・バタジアはディレクター・チームの一員のバタジアの娘で映画初出演だが、輝かしいデビュー。弟リュシアンは「パリ、ジュテーム」(06)のコーエン兄弟篇に出演したギュリヴェール・エック。ギュリヴェールは、ガリバー旅行記のガリバーのフランス語読みで、天才ぶりを発揮する。TVディレクターは「幸せはシャンソニア劇場から」(08)のエリザベート・ヴィタリ。TVカメラマンならぬカメラガールはアフリカ系フランス人舞台女優のアイ・アイダラ。




ゴダールはこのエピソードを、スペインからオデッサへの航路で黄金の3分の1が消えてなくなり、さらにモスクワに到達するまでにもう3分の1が失われたと改変している。フォンテスは、最初の3分の1について調査済みで、ナチスだったゴルトベルクが横領したのではないかと考えている(ゴルトベルクは豪華客船会社の大株主でもある)。それに対して、共産主義文書を調査しているオルガは、オデッサ‐モスクワ間で消失した分の行方にこだわっている。フォンテスは、最後の3分の1を横領したのは、ヴィリー・ミュンツェンベルクだと示唆する。
ミュンツェンベルクは、20年代から30年代にかけてのヨーロッパで辣腕をふるった共産党の宣伝家で、さまざまな反ファシスト運動の編成に力を発揮し、スペイン内戦中の国際旅団への志願兵の募集にも一役買った人物である。
ゴダールはこの黄金の話を、1982年に亡くなる直前のジャック・タチに聞いたという。タチはゴダールに、スペイン銀行の金貨を見せながら、これはスターリンが奪ったスペインの黄金の残りで、ウェルズの「アーカディン氏」(55)とタチの「プレイタイム」(67)のプロデューサー、ルイ・ドリヴェにもらったと語った。(ただし、ドリヴェは実際には「プレイタイム」ではなく、「ぼくの伯父さん」のプロデューサー)。ドリヴェは、かつてミュンツェンベルクの助手だった。そして、彼はミュンツェンベルクが横領した黄金を、戦後、相続した。だからこそ、彼は映画製作をすることができたのだ、とゴダールは語っている(『ゴダール全評論・全発言3』、18頁)。

文学では、ヴァルター・ベンヤミン、ジャック・デリダ、ジャン=ポール・キュルニエ、ロラン・デュビヤール、ハンナ・アーレント、オットー・ビスマルク、ジャン=ポール・サルトル、レオン・ブランシュヴィック、ジャン・ジロドゥー、ジャン・タルデュー、シャルル・ペギー、ルイ・アラゴン、ステファーヌ・リュラック、アンリ・ベルクソン、ジョルジュ・ベルナノス、ドゥニ・ド・ルージュモン、クリスタ・ヴォルフ、リムスキー=コルサコフ、フェルナン・ブローデル、クロード・シモン、ニール・ガブラー、ルイジ・ピランデッロ、ポール・リクール、サミュエル・ベケット、アンドレ・マルロー、クロード・レヴィ=ストロース、ジョゼフ・コンラッド、ウィリアム・シェイクスピア、マルチン・ハイデガー、ラ・ロシュフーコー、ヨハン・ヴォルフガンフ・フォン・ゲーテ、クルツィオ・マラパルテ、ジャン・ジュネ、ゾエ・オルデンブルク。
音楽では、ベティ・オリヴェロ、アルヴォ・ペルト、アヌアール・ブラヘム、トマシュ・スタンコ、アルフレト・シュニトケ、パコ・イバニェス、ベルント=アロイス・ツィンマーマン、ギヤ・カンチェリ、ヴェルナー・ピルヒナー、エルンスト・ブッシュ、チエリー・マシュエル、ベートーヴェン、チェット・ベイカー、バルバラ、ガブリエラ・フェリ、ジョーン・バエズ、アラン・バシュン、モンス、ミーナ。
映画では、「イタリア旅行」、「シャイアン」、「ツァハール」、「王女メディア」、オーソン・ウェルズ「ドン・キホーテ」(未完)、「戦艦ポチョムキン」、「ローマン・カルメン」、「希望」、「アデュー・ボナパルト」、「復讐のエトランゼ」、「マラソンの戦い」、「ローカル・エンジェル」、「デビル・ハザード」、「十月」、「ウィークエンド」、「地中海」、「ナポリの四日間」、「老人と砂漠」、「シモーヌ・ヴェイユ、移り気な女」、「ミケランジェロのまなざし」、「花嫁の歌」、「ギリシャ内戦」、「アレキサンダー大王」、「白銀の戦場」、「アニエスの浜辺」、「アラビアン・ナイト」。(日本未公開作品を含む)。