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「エレニの旅」はテオ・アンゲロプロス監督が「永遠と一日」(98、カンヌ映画祭パルムドール大賞)いらい6年ぶりに完成した待望の新作で、長編第12作。構想に2年、撮影に2年をかけ、ついに堂々たる新たな傑作が誕生した。ヒロインの名はエレニ。ギリシャ女性によくある名前であり、ギリシャの愛称でもある。難民として、ギリシャ現代史をひたすらな愛で旅していくエレニには、ギリシャそのものの姿が投影されている。
物語は1919年から1949年にいたる。ロシア革命で赤軍がオデッサに入城してオデッサから追われ、逆難民となって帰国する一群のギリシャ人たち。エレニはオデッサで両親を失った孤児だった。人々は<ニューオデッサ>村を築き、エレニはスピロスの養女として育ったが、スピロスの息子アレクシスの子供をみごもった。生まれた双子のことは絶対の秘密だった。とりわけスピロスには。アレクシスはエレニに、いつかふたりで河から水の流れのはじまりを探しにいこうと約束する。やがて成長したエレニをスピロスが娶ろうとし、エレニは結婚式の場から逃げてアレクシスとテサロニキに去る。救ってくれたヴァイオリン奏きのニコスは、アレクシスがアコーデオンの名手であることを知っていた。アレクシスは、アコーデオンの腕で、いつかアメリカに行けるかもしれないと夢みる・・・。
叙情詩の風格の物語をアンゲロプロスならではの映像美で心にしみいるように語りかける。長さが特徴として語られるアンゲロプロス映画だが、一秒一秒の映像美の持続が心に響く人にとっては、長いどころか短いとさえいえる映像美。そうした美をさらに追求するために、「エレニの旅」は、映画ほんらいの手作り姿勢に徹することから始まった。難民たちが生活する大きな村落が二つ。これを実際につくりあげ、それぞれ百軒以上の家々にスタッフや俳優たちが住んで暮らしたうえで撮影にかかった。しかも、村のひとつ<ニューオデッサ>は、自然のなかにのどかな姿をあらわす前半から、大洪水で水没し、後半では水中になかば没した姿で主役のように美しいのが驚異的だ。CG技術を排除し、ひたすらアナログに徹して、映画ほんらいの美しさを実現する、そうした冒険と確信がこの映画全体にがっしりと根をはっている。
企画の当初の題名が<トリロジア>で、1本の長編で20世紀全体を描く構想だったことが知られている。しかし上映時間が膨大になりすぎることから、3本の映画としてそれぞれが独立した構成で製作することになり、その第1作が「エレニの旅」となった。「エレニの旅」の撮影は2001年秋に開始。2003年秋に最後の撮影があがるまでの2年間に、内容は脚本よりもさらにふくらみ、当初の構想に匹敵するコンセプトとエネルギーが注ぎこまれて、2004年のベルリン映画祭で<ザ・ウイーピング・メドウ>として発表した。
制作スタッフは「ユリシーズの瞳」いらい同じ脚本陣に、撮影は「こうのとり、たちずさんで」いらい常連のアンドレアス・シナノス、美術も「旅芸人の記録」いらい常連のパッツァスと「永遠と一日」のディミトリアディスのコンビだ。製作はアンゲロプロス夫人であるフィービー・エコノモプロス。
音楽は「シテール島への船出」から全作品を担当しているエレニ・カラインドルー。数々のテーマ曲が全編を美しく彩るが、この映画での音楽は映画音楽以上の役割を果たしている。主人公アレクシスはアコーデオンの名手。彼がバンドに参加したくなるように音楽で誘いかけるシーン、和解しようとしない子供たちに音楽が聞こえてくるシーン、そして、アメリカに発つアレクシスに白布のむこうからお別れの挨拶が聞こえるシーンなど、全編での音楽の登場がお楽しみだ。
ヒロインのエレニは、アンゲロプロスが母カテリナへのオマージュとして造型した人物で、古代ギリシャ劇の悲劇のヒロインと現代性とをあわせもつ新人女優アレクサンドラ・アイディニが起用された。エレニとのひたすらな愛を生きるアレクシス(アレクサンドロスの愛称)には若手演劇俳優のニコス・プルサニディスを抜擢。一家の長で暴君タイプの父親スピロスは「霧の中の風景」のヴァシリス・コロヴォス。ヴァイオリン奏きのニコス役には、アンゲロプロス映画に初登場だが、劇団の名優で主役の二人の師でもあるヨルゴス・アルメニス。「旅芸人の記録」のエヴァ・コタマニドゥがスピロスの姉役で、「アレクサンダー大王」いらいの常連ミハリス・ヤナトスがマネージャー役で登場して脇をかため、アンゲロプロスの長編第1作『再現』でヒロインのエレニ役を演じたトゥーラ・スタトプロウが、幻覚に襲われるエレニを介抱する老婆役で登場している。
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